少し間があいてしましましたが、前回のつづきフリッツ・ハンセンのセブンチェアについて今日はおはなししたいと思います。

フリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)は、1872年にデンマークの木工職人ワーグナー・フリッツ・ハンセンによって創業された家具製造メーカーです。
1915年に発表された有名な"The Ant Chair"(アントチェア)で初めての成功を収め、今ではグローバルカンパニーとして日本の商住空間でも親しみ深い存在ではないでしょうか。

そう、そのアントチェアを見た時の衝撃は今でも忘れません・・・!
それはたしか高校時代、自宅でインテリア雑誌を眺めていたときのこと・・ひと目見た瞬間から「蟻をモチーフにデザインしました」の説明なしに「蟻をモチーフにデザインされた椅子だ!」と、瞬時に理解できたのです。
そのとき、「デザイン」というまだ抽象的にしか理解していない言葉の意味をすこし教わったような気がしています。
見ただけで言葉を訴えかけてくる媒体としての性質にくわえ、もちろん家具としての機能も備えしかも洗練されている・・・なんだこの感覚は・・・!そう思ったことをこの記事を書きながら鮮明に思い出します。


話は戻って。
その後ハンセンのデザインフィロソフィーは、エッグチェアで有名なアルネ・ヤコブセンや美しいラウンジチェアPK22等で知られるポール・ケアホルムなど、著名なデザイナーとのコラボレーションを通じて拡大していきました。モダンなデザインかつ職人技術に裏打ちされた品質で国際的に評価され、その家具は美術館やデザイン愛好者のコレクションにもなっています。
そして今回、良き出会いに恵まれたこのセブンチェアは、フリッツ・ハンセン社を代表するベストセラーであると同時にブランドのアイコン的存在でもあります。

ー以下公式サイトよりー
「特徴的なこのフォルムは、タイムレスかつ多用途で、飾ることなく個性的です。9層のベニヤで構成される成形合板のシェルは、そのスレンダーなフォルムに強度と柔軟性、耐久性を備えています」

まさに説明の通り、シンプルで飽きの来ないデザインに、積層ベニヤ構造(前回のご紹介したarperと同じ)なので荷重に対してのしなやかさがあります。
では実際の使い勝手はー。
不朽の名作とあれど、長時間の着座や低身長の人には向かないかも・・?というのも、デンマーク人と日本人の平均身長差は男女別に見ても10cm以上なので、座面も背板も日本製と比較すると高く、そもそも設計スケールが違うということを改めて気付かされます。ちなみに前回紹介したSAYAの製造元イタリアは、日本との平均身長差5〜6cmでイタリアがやや高い。ファッションでも家具でも車でも、昔から身につけるもの触れるもので心地良いと思えるものはいつもイタリア製が多かったのは、この人間工学的な理由に起因しているかも、そんなふうに思えます。
(オランダに住んでいたときはドアノブ、便器、シャワーヘッド、、なんでもかんでも高かったのを思い出しますが、その一方で今は食文化が変わり、日本でも背の高いスレンダーな方がたくさんいらっしゃいますよね。羨ましい!)

デザイン製の高さ故つい手を出しがちな名作でも、実際に使ってみないとわからないことがたくさんあります。そのためにショールームがある!といえばそうですが、私は「試す」と「使う」で得られる情報量は大きく違うと思っています。心身共リラックスする我が家でのディナータイムか、少し緊張感のあるカジュアルなオフィスか、はたまたデンタルクリニックの待合室か・・どういうシチュエーションで、どういう方が、どんな身体の状況で使うのか、そういうことを丸ごとご提案する空間設計を仕事にするからには、なるべく実体験に基づく提案がしたい(もちろん実体験に個人差もありますが)。
そういう想いを胸に、事務所を構えるときにはデザインは統一せず実験的に椅子のバリエーションを増やし試していこう決めていました。
フローリングの床にはそのままだと傷がついてしまうため、メーカーが用意しているセブンチェア専用の脚カバーを購入しました。写真のように、床との接地面に硬質フェルトがついていて、これなら安心です。(Sempreで1つ400円くらいで購入できます)

先に使い勝手について触れましたが、いやいや、そうは言ってもこの底抜けに明るく美しい色!

その名も「Ultra Marine」。

夏の日差しをたっぷり浴びて、空と海の境がわからないくらい強く爽快なブルーが大のお気に入りです。この子が1ついるだけで、ぼんやりしがちなインテリアのアクセントになって空間をキリッとと引き締めてくれて、今ではちょっとしたスツールとして一番目立つところ鎮座しています。
まるで、使って飾れる美しい彫刻みたいに。


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